事務所ブログ

2016年4月13日 水曜日

捨印について

東京都文京区で弁護士をしている野口眞寿です。

今日は捨印の話です。
たまに、捨印について「相手が自由に修正できてしまう」として危険だ、押すべきではないという話を見かけます。

実際、捨印とはどのようなものでしょうか。
実は、捨印の効力について、最高裁判所まで争われた事件がありました。昭和53年10月 6日に出された判決です。

その事件では、貸金を返せという請求なのですが、連帯保証人兼抵当権設定者が遅延損害金に関する条項の割合につき全く記載がされていない金銭消費貸借契約証書に連帯保証人兼抵当権設定者として署名押印して同証書の欄外上部等に捨印を押捺し、その後、上告人の従業員が右損害金条項の個所に加入の形式で補充して、年三割の割合による遅延損害金を支払う旨の条項を記載しました。
最高裁判所は、「金銭消費貸借契約証書に債務者のいわゆる捨印が押捺されていても、捨印がある限り債権者においていかなる条項をも記入できるというものではなく、その記入を債権者に委ねたような特段の事情のない限り、債権者がこれに加入の形式で補充したからといつて当然にその補充にかかる条項について当事者間に合意が成立したとみることはできない。」といって、損害金の利率について合意を否定しました。

捨印が押されていたケースで裁判所が「その記入を債権者に委ねたような特段の事情」というからには、捨印を押したというだけでは、「債権者に委ねた」とは見ることができないということでもあります。
この「特段の事情」は、補充をした側が証明しなければなりません。これが証明できない限り、後から補充された部分は有効な合意として成立していないということになります。

特段の事情としては、例えば、補充について合意していたような場合や、補充する内容について合意ができたので記入するという場合などが考えられます。
もちろん、証明しなければならないことを考えると、書面やメールなど記録に残るやり方が必要でしょう。
一方、捨印を押した側は、自分の印を押した後の書類について、コピーを取っておいた方がいいでしょう。そのコピーによって、修正箇所が後から修正されたものであることが証明できます。

まとめると、
1 捨印を押したからと言ってなんでも追記や修正ができるわけではない。
2 捨印によって修正する場合でも、メールなど記録に残るように修正箇所の同意を取った方がよい
3 捨印を押す側は、押した後コピーを取っておいた方がよい
ということになります。

捨印、意外と不自由です。

投稿者 初雁総合法律事務所

相続相談ガイドに掲載されました
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