事務所ブログ
2014年6月 6日 金曜日
赤字の個人事業主の休業損害
休業損害って?
休業損害とは,事故による負傷を治療するために仕事を休んだことによって,本来得られるはずだった収入を得られなかったとする損害です。
給与所得者であれば,給与額を「本来得られるはずだった収入」とすることができます。
個人事業主であれば,税務署への申告内容から所得額を求め「本来得られるはずだった収入」とします。
事業が赤字である場合の問題点
ところが,赤字である場合に「本来得られるはずだった収入」をどう認定するかが問題となります。
赤字となっているわけですから,売上げより経費の方が多い状態です。所得がありません。
所得がない以上,本来得られるはずだった収入はゼロとなり一切賠償されないことになるのでしょうか?
加害者側からそのような主張がなされることもあります。
しかしその結論は明らかに妥当ではありません。
事故によって仕事を休むことになったにもかかわらずなんの補償もされないのでは,被害者は泣き寝入るしかありません。
休業損害の計算方法
交通事故の事案ではありませんが,飲食店を経営していた赤字会社がビル火災により休業を余儀なくされたことについて賠償がなされた裁判例があります(東京地方裁判所平成24年8月29日判決)。
同判決の該当部分を引用します。
『 売上高の推移からすれば、本件火災(平成二一年九月一六日発生)により、第二七期にはそれまでの売上の減少幅を大きく上回る売上高の減少が認められるのであり、本件火災により休業を余儀なくされたことによる売上高の減少があったことは否定できない。
ところで、原告会社は、上記のとおり、損益計算書上、利益を上げておらず、損失計上を続けてきた。そこで、被告は、原告会社に休業損害はない旨主張するが、本件火災がなければ損失計上額を低く抑えることもできたのであるから、休業損害がないということはできず、①本件火災がなければ生じたであろう損失計上額と、②本件火災の後の実際の損失計上額の差を一か月当たりに引き直した額が本件火災により余儀なくされた休業損害額というべきである。
本件火災がなければ生じたであろう損失計上額は、第二六期の損失計上額と概ね同額である二八〇万〇〇〇〇円と見るべきである。確かに平成一七年一一月一日以降、売上の低落傾向は認められるが、他方で役員報酬をなくし、給与手当も削減する等経営の合理化に努めており、第二七期においても第二六期程度の損失計上に留める見込みがあったと認められるからである。』
営業をしていれば損失額を抑えることが出来た→拡大した損失額が損害となる という論理です。
一つの方法として納得できるものではありますが,損失額が拡大していない場合などには使えないという欠点もあります。
違う方法として考えられるのが,事務所賃料など無駄になった固定経費を損害とするものです。
算定の方法として合理的な方法ではありますが,休業したことによって損失の拡大を免れたという事実を反映しきれない欠点があります。
賃金センサスの平均賃金を元に損害額を考えることもあります。
東京地方裁判所平成15年7月1日判決がそれです。
『 ア 前記第3の1(4)(一)認定のとおり,本件事故の前年である平成10年度の確定申告書によれば,本件店舗はいわゆる赤字経営であって,原告の事業所得は0 円であったと認められるし,本件事故の年である平成11年度の確定申告書によっても,本件店舗は赤字経営であって,原告の事業所得は0円であったと認めれる。
イ この点,原告は,事業所得算定の基礎となる売上金額について,本件事故の年である平成11年度の確定申告書上は,1月から10月までの総売上金額を655万 1442円としているが,これは小規模店舗を経営する事業者にとっては常識であるいわゆる過少申告にすぎず,実際は,本件事故の直前3か月,すなわち平成11年8 月から同年10月までの売上金額は,8月が248万1120円,9月が280万3860円,10月が277万3090円であり,それを平均すれば,1か月当たりの 売上金額の平均は268万6023円あったと主張し,これに沿う証拠(甲8ないし10)も提出する。しかしながら,原告が提出した証拠(「お会計票」)は,その記 載内容,提出の経緯等にかんがみ,たやすく採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ウ もっとも,証拠(甲5,甲6の1ないし5,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,ある時期には雑誌に取り上げられるなどしながら,およそ13年間に わたって本件店舗の営業を維持してきたものと認められるから,時期により多少の変動はあるものの,本件店舗の営業で少なからず利益を上げ,そこから相当額の収入を 得ていたと認めるのが相当である。
そして,本件事故当時の原告の年齢(62歳)などに照らせば,本件事故当時,原告は,1年間当たり,平成11年賃金センサス第1 巻第1表のⅠ「卸売・小売業,飲食店」の企業規模計・男性労働者・学歴計・60歳~64歳の年収額482万7000円の収入を事業所得として得ていたものと認める のが相当である。』
判決文を見ても分かる通り,実際には申告した売上げ以上の売上げがあったと主張していた事例で,それ自体は否定されたものの,相当額の収入を得ていたとの認定をしています。すなわち,実際には赤字ではなかった,という認定です。
この方法は,裁判所に「実際は申告以上売上げて収入を得ていたな」と思わせなければなりませんので,それを支える相応の資料が必要になります。
最後はケースバイケース
どちらの方法によるべきかは,最終的には個々の事業の状況次第となります。
ケースによってはここに挙げた方法以外の算定方法をとるべき場合もあるでしょう。
事業の形態や数字の推移などから考えて最も説得力をもつ算定方法を選択すべきです。
単純に数字が最も大きくなる算定方法を選んでも,その論理に説得力がなければ裁判所に認めてもらうことは困難だからです。
その説得力のために,弁護士がおり,日々裁判所に響く説得の仕方を磨いています。
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投稿者 初雁総合法律事務所