事務所ブログ

2014年1月 6日 月曜日

医療過誤訴訟の難しさ

東京文京区で働いている弁護士の野口眞寿です。

当事務所では,専門的な事件として,患者側での医療過誤訴訟を扱っています。
俗にいう医療ミスの問題です。

医療過誤は専門的といわれる訴訟の世界においても特に弁護士の技量が問われる分野だと,私は考えています。
医療ミスは,法律の世界では,普通,不法行為責任(民法709条)か,診療契約上の債務不履行責任(民法415条)の問題として扱われます。
法学的な細かいことをいえば,不法行為責任と債務不履行責任は同じものではないのですが,医療過誤の分野に限れば,基本的な部分は共通しています。

医療過誤訴訟は,相談→調査→交渉・訴訟,という流れで進行していきます。
当事務所では,医療過誤の相談を受けた場合,必ずまず調査のみの受任をすることにしています。
その理由は簡単です。通常の民事訴訟と違い,医療過誤訴訟は,数か月,ときには数年の時間をかけて調査をしなければ勝訴の見込みがあるかどうか判断できないためです。
勝訴の見込みがないのに訴訟を起こしても,誰も幸せになれません。

医療過誤訴訟は,医療に関する基礎的な知識,医学文献を調査する能力,膨大な診療に関するデータを分析する能力,それらを理解し法律的に再構成する能力,などなど,法律家として重要な技能が高度に求められる分野です。

もう少し端的に言うと,医学的な技術経験によって行われる医療行為を,医学ではなく法律学の視点で捉えなおす力が必要,ということです。

当然ですが,医療ミスは,診療が結果的にうまくいかなかった場合の問題ではありません。
医師は神様ではありませんから,あらゆる病気を必ず治せるというわけではないからです。診療の甲斐なく残念な結果に終わったからといって,医師を責めることはできません。

ではどういう問題か。
「その時の患者さんの状態から考えて,過失によって医師として行ってはならない行為をし,患者さんに本来生じなかったはずの損害を被らせた場合」の問題です。
この鍵カッコでくくった場合であることが証明できれば,医療ミスです。勝訴できます。

さて,簡単なようなこの一文に,医療過誤訴訟のむずかしさが表れています。

①その時の患者さんの状態
問題となっている診療行為の行われた時から数カ月,場合によっては数年たった後に,その時の患者さんの身体の状態がどうだったのかを明らかにしなければなりません。
頼りになるのは検査結果とカルテだけです。
痛いなどの主訴的な症状についてだけなら本人の言葉だけでも十分ではないかと思うかもしれません。しかしこれは裁判の世界です。痛いことが客観的に証明されなければ,裁判官は痛いと認めてくれません。
診療にあたって行われる様々な検査,たとえばレントゲンや,CTスキャン,血液検査などの結果から,その時の状態を証明しなければならないのです。
ここでは,知識をもとに膨大なデータを分析する能力が特に問われます。

②過失
過失とは,注意義務違反です。
人の命を扱う者である医師に課せられる注意義務は,非常に高度なものです。「危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くし」て診療にあたらなければなりません(最高裁平成7年6月9日第二小法廷判決)。

③医師として行ってはならない行為
薬には副作用がありますが,副作用があるからと言って効果のある薬を投与しないわけにはいきません。
手術にはリスクがありますが,リスクがあるからと言って手術をしないわけにはいきません。
ここでは,①で解き明かした患者さんの状態を前提として,そのような診療はしてはならなかったにもかかわらず,そのような診療をしたということが言えなければなりません。ではどのようにその診療をしてはならなかったかを判断するかと言うと,そのレベルは,「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」(前記同判決)が基準です。

最終的には実際に臨床の現場で活動している医師の助言(意見)も必要です。
これも診療にあたったのとは別の医師が「こんな診療はありえない」や「私ならしない」と言っただけでは足りません。
その医学的な根拠や,文献,診療録と照らしてその意見が妥当なものなのかどうかも,弁護士としてしっかりと検討しなければなりません。

医学文献は医師が診療をするために書かれているものです。書かれている先生のスタンスの違いか,同じ診療方法でも利点をとにかく強調する文献や,慎重にリスクを指摘してくださっている文献などさまざまです。また,「こういう点に注意する」と書かれていても,注意しなかったらどういうことがおこるのか,が書かれていないこともあります。「こうすべきではない」という記載も,「絶対にやってはいけない」のか「やらない方がいいがケースによってはその選択もあり得る」という趣旨なのか,はっきりしなければなりません。求める答えの書かれた文献を見つけるために,インターネットや図書館を使い,使えそうな文献にことごとく目を通すような調査が必要となるときもあります。
ここでは,医学文献を調査する能力が特に問われるのです。

④本来生じなかったはずの損害を被らせた(因果関係)
問題の診療がなければ,その損害は生じていなかったと言えなければなりません。生じた損害の原因が,してはならない診療が行われたことにあると合理的な疑いがない程度の確実性を持って言えなければならないのです。

実際に問題の診療は行われてしまっているわけですから,どうしてもここは推測するしかない部分です。カルテや検査結果,文献などから,この診療がなければこうなっていなかったはずだ,ということを説得的に構成してみせなければなりません。
推測するしかないのに,確実だと証明しなければならない。
難題です。
逆を言えば,弁護士の腕の見せ所という見方もできます。カルテや検査結果にある,ありとあらゆる客観的な情報をいかに分析するか。難しいほど燃えてきます。


医療過誤訴訟の勝訴率は,通常の一般民事訴訟より低くなっています。
それは,医学という世界の不確実さもあるのでしょうが,それを法的に評価しなければならないという上記のような点に原因があるように思います。
スキルを磨く不断の努力が,弁護士にも求められています。


投稿者 初雁総合法律事務所

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